「定番品」とか「一生もの」というフレーズは、大人の心をくすぐる響きを持っています。
「定番品のロロ・ピアーナのウィンタータスマニアン濃紺スーツ」
「一生ものの、ゼニアのピュアカシミアのチェスターコート」
などなど。
実際に私もほぼ一生ものになるであろうチェスターコートを20年以上着ていますし、定番品でいえば、ライトベージュの麻のスーツやヘリンボーンのハリスツイードのジャケットなどを持っています。
どの服も役になってくれていますが、しばらく着用せずほったらかしになる期間もありつつ、長々と着用しています。
例えば現在当店では久しぶりにアルスターコートの試作品を計画しています。30年以上前には店頭でもアルスターコートやナポレオンカラーのコートのオーダーが多かった時代もありました。
こうしたコートの既製品も多く流通していましたから、男性の服飾産業は現在に比べ、より繁盛していたと思われます。
アルスターコート向けの英国、スコットランド&アイルランドツイード生地見本です。コートやジャケットを作る際にこの見開きブックを見ていると楽しい気分になります!
このアルスターコートは「一生もの」カテゴリーに入ります。微妙にダブルブレストのチェスターコートにも似ていない事もないのですが、かつては「定番品」に入っていた事でしょう。
そんな「定番品」の一つがこちらのゼニア(Ermenegildo Zegna)のピュアリネンのスーツです。イタリア大手のミル(生地メーカー)、ゼニアは定番品を数多く持っています。
当店の経験でいえば、このピュアリネン生地の中でも、ライトベージュとネイヴィー色に関しては、ゼニアは一貫して同じ色合いと目付きの生地を提供し続けています。
当店の昔からのお客様方がお直しなどで持ってくるお洋服には、このゼニアのピュアリネンスーツが必ず入っています。明るいベージュなので襟や袖が汚れたり、ほつれたり・・・。
30年以上着用されたピュアリネンのスーツのお直しをお預かりした際には、麻スーツなのに、言いようもなく柔らかくトロリとした手触りとなり、全体的にシミがあったり、かぎ裂き補修がしてあっても、服自体に風格と過ごした月日が感じられる存在となっていました。
今回オーダーをいただいたピュアリネンのスーツは、まさにゼニアの定番品です。
シンプルなシングルブレスト2個ボタン、一枚仕立て、サイドベンツ、ハンドステッチ、カフスは本切羽・・・と、麻のスーツならこれ!というべき仕様です。
295g/mのピュアリネンは、盛夏でのご着用には少し暑く感じます。どちらかといえば、春夏ものというべきでしょうか?
最も、コロニアルな環境、例えば地中海沿岸、東西インド諸島、インド、シンガポール、ケープなどの旧植民地で社交的に過ごすなら、この服はシーズンを問いません。
このライトベージュのリネンスーツは、生み出したヨーロッパ人がアジアやアフリカの暑さと湿気から身を護る為に生み出し、長い時間をかけて「定番化」させた服です。
日本人である私たちも明治以降、海外に出る際はこのようなピュアリネンのスーツが必要になったことでしょう。なにしろヨーロッパに行くには赤道付近をひたすら航海しなくてはならなかったのですから。
リラックスしてご着用するために、裏地や芯地はなるべく控えめに・・・。
一枚仕立ての一枚芯です。
ボタンはゼニアのオフィシャルな白蝶貝をお選びいただきました。
トロピカルな気分になりますね!
背裏とパイピングは裁縫士の腕の見せ所です。
これもゼニアオフィシャルのライトパープルのライニングが表生地を引き立てます。
ご試着の際に、お客様とともに写真をお撮りしました。
これからの人生航路のお伴に、この定番品のゼニアの麻スーツが、ぜひお役に立って欲しいものです!