マゼラン海峡は1520年にポルトガル人のフェルディナント・マゼラン率いるスペイン艦隊により発見された、大西洋から太平洋へ抜ける海峡です。
マゼラン海峡突破の冒険談は、私が小学生の頃国語の教科書に載っていました。
数々の水路の探索と失敗、僚船の反乱など、手に汗握る内容でした。
マゼランはじめ、誰もがもはや海峡突破が無理ではないかと絶望しかけた時に、切り立った断崖の狭い海峡の中で停泊中の艦側の潮の流れを見ていた見張りが、「流木が今までと逆方向に流れている」事を発見、そこから数日かけて広大な太平洋へ抜け出るくだりはとても印象的でした。
プンタ・アレーナスはそんなマゼラン海峡の中継点として栄えている港町です。その歴史はチリ政府の犯罪者流刑地として数度の反乱や破壊を経て、今に至っています。
そのプンタ・アレーナスから集荷される良質のウールが、「プンタ・ウール」になります。
そのプンタ・ウールは、滑らかな毛の細いウールが採取される「メリノ種」と、毛足の長いウールが特徴の「リンカーン種」を交配した「コリデール種」という羊から採取されます。
角が無く、おとなしく飼い易い性質のコリデール羊は東京の上野動物園でも見る事ができます。
そのプンタ・ウールを原毛として織り上げた、フレスコ織りの通気性の良い盛夏向けの生地を使って、スーツをお仕立ていたしました。
シンプルなシングルブレスト2個ボタン、センターベントのデザイン。外見はシンプルですが特長は一枚仕立てであることと、ノーパッド、一枚芯の軽涼でコンフォートな仕上がりです。
太めの糸を使ってフレスコ織りにしている為、生地の手触りはドライでカリッとしています。シワになりづらく弾力性があるので、コンフォート仕立ての割には立体的な仕上がりになりました。
ボタンは明るめの本水牛・艶消しです。
お客様は以前から袖の釦を本切羽仕様にしており、ついでに一番下の釦ホールをエンジ色に替えています。この糸色を替えるこだわりは、ご自身が流行させたといっても過言ではないほどです。採取はかなり奇異な目で見られたとか。
裏はほぼライニングの見えない大身返し仕立てです。
そのライニングはストライプの袖裏を使いました。このストライプ柄の選定もお客様の悩まれたポイントですが、うまくいったようです。
まだまだ夏のビジネスは続きます。
通気性の良い快適なパタゴニア育ちのウールから作られたスーツに袖を通す時、500年の時の経過を考えてみるのも楽しいかと存じます。
プンタ・ウール WOOL100% 305g/m
スーツS上下・お仕立て上り金額(税別)
BESPOKE(仮縫い付きハンドメイド)・・・¥178,000
SARTORIA(パターンオーダーメイド)・・・¥61,500