昔この業界に入った頃、ビジネススーツの基本的な色は3つだけと教わったことがあります。
すなわち、
「紺(ネイヴィー)」、
「グレー」、
「茶」
の三色です。
確かに、微妙な色合いのスーツ生地もあります。濃い緑色、エンジ系、昔バブル景気の頃に流行った明るいパープル、夏の麻や綿を中心としたベージュなどなど。
しかしこと「ビジネス」となると、最初の三色に限定されます。
テーラー業をやっている私の感覚では、この三色の中で最も楽しくお洒落な色は「茶」だと思います。茶色は土の色であり木の色であり母なる大地を感じさせる色、「アースカラー」の根源です。
奥行きが深く、大変お洒落な色合いでもある茶色ですが、着る方の年齢と関係があるかもしれません。私は今52歳ですが茶色が本当に似合うかどうか、実はまだ自信がありません。それでも着ていますが・・・。
しかし、若い方で茶を選ぶお客様もあり、しかも結構お似合いなるので一概に年齢とリンクするわけでもありません。ちなみに下の写真の三揃いスーツは、30代のお客様からのオーダーでした。
そんなお洒落感のある茶色のスーツ、今回60代のお客様からのオーダーでお仕立てしたのは、シンプルな2個釦サイドベンツのスーツS上下です。ただし、ジャケットの腰ポケットはアウトポケットです。
毎日がスーツスタイルのお客様はさすがに、三原色どれを着てもお似合いですが、やはりこのダークブラウンのスーツもとても良くお似合いになっていました。
ご試着の日はインナーにハイネックのニット、お靴も深いグリーンをお合わせになりましたが、これがまた良くお似合いです。ご試着のそのままお帰りになられてもいいのでは?などとお話ししたほどです。
この茶色のスーツS上下、最初はずいぶん地味なかんじになるかと思いましたが、やはりコーディネートと着る方の自信からにじみでる雰囲気で、とてもいい感じになりました。
はたして私が着ても様になったかどうかわかりませんが、このような渋いこげ茶に近い色合いの「茶」の魅力を改めて感じました。
外見の渋さとは別で、昨日も書きましたがライニングは美しいお花畑が咲き誇っています。
冬向けのツイーディーな茶のスーツの中には、人知れず「春を待っている」雰囲気が出ています。清少納言なら「いとおかし」と表現するのでしょうか・・。
お客様のスーツライフの成熟ぶりが伝わります。
冷たい風が吹きわたる冬の1月、皆さまも茶色のスーツにトライしてはいかがでしょうか・・・?