映画「ワーテルロー」は、1970年に製作されたソ連・イタリア合作の超大作戦争映画でした。
CGの技術が全くない当時、戦場の模様、軍装、兵器、1815年頃のパーティーシーンなど、せべてが手作りで作られ、アナログで撮影されています。
今でも映画を完成させるには大変な労力が必要です。そう考えると、当時の大作と云われる映画、「ベン・ハー」や「アラビアのロレンス」などはいかような熱意と手間暇をかけて製作されていたのか、想像もつきません。
この映画はその名前の通り、ナポレオンが敗北した最後の会戦「ワーテルローの戦い」の一日を史実に沿って描いています。開戦前のちょっとした幕劇はあるいものの、映画のほとんどは史上まれにみる激戦を、ロシア人の監督がソ連陸軍の最大限の協力を得て撮影しています。
英国軍を率いるウェリントン公爵を俳優クリストファー・プラマーが演じています。この人もキャリアが長い俳優で、私も沢山の出演作を観てきました。しかし、この作品のクリストファー・プラマーは長いキャリアの中でも、最も光り輝いています。
戦場に一人立つウェリントンは、目の覚めるようなブルーのシングルジャケットに白いパンツ、上襟はスタンドカラーとなっています。シャツの胸元には勲章を下げるリボンが美しいネクタイのように配されていました。
凄絶な戦闘の最中、白馬に乗り指揮を取る彼の周囲は、英国伝統の赤い軍服(レッド・コート)の将校が固めていて、そのシーン自体が絵になります。
写真左の俳優ジャック・ホーキンスは勇猛なピクトン将軍を演じています。ご覧のようにピクトン将軍はダブルのフロックコートに雨傘を持つ、典型的な英国紳士姿です。
事実、戦場に軍服が届くのが遅れ、このような平服で指揮を取ったようです。彼が指揮する陸軍師団が前進する際には、バグパイプ奏者が随行し聞きなれたあのメロディーを奏でます。
不釣り合いの様で何故か戦場に響き渡るバグパイプの音色に闘争心が掻き立てられるのでしょう。
映画では、英国側の無謀なスコットランド騎兵の突撃の失敗と、これも効果が無かったフランス軍の近衛騎兵隊の英国方陣への攻撃なども描かれます。スコットランド騎兵は赤と金、フランス騎兵はブルーとグレーの軍服です。
騎兵は花形だったのでしょう、両軍とも彩り豊かな軍服、サーベルを光らして突撃するその美しさは、実写ならではの映像です。
忘れてはならない主役、皇帝ナポレオンを演ずるのは俳優ロッド・スタイガー。
伝説の英雄でありカリスマ指導者としての貫録を感じさせながら、中年になり少しづつ体力や判断力が鈍りつつ指揮をするナポレオンを見事に演じています。
これぞナポレオン・カラーという彼の代名詞となったコートを着て、馬形帽を昔風に横にかぶり、小太りの身体に後ろ手を組んで戦争の指揮をする。英国軍がウェリントンと幕僚たちのチームで指揮をするのと違い、すべての命令がナポレオンという権力者から発する。・・・そして負けていく。孤独が伝わってきます。
ロッド・スタイガーはナポレオンになりきって演じています。敗色濃厚な会戦の終盤、これまで皇帝に従ってきた歴戦のベテラン近衛連隊の最後の突撃と共に馬を進ませがらも、政治的な配慮で周囲から断られ、寂しく戦場を去るナポレオンを背中だけで表現していました。
軍服やドレスの作製にどれほどの資金を投じたのか判りませんが、19世紀初頭の絵画でしか分からない当時の服装が甦る贅沢な映画だと思います。
日本語字幕版も久々に復活したようです。よろしければ、一度ご覧になってはいかがでしょうか?