株式会社ダイドーリミテッドは、日本の毛織物メーカーとしてはかつて二番目に大きな企業でした。1980年代後半から安価な中国製紳士服生地がどっと日本に流れ込むようになり、1993年にはいち早く中国上海市に工場を移転、「上海・ダイドー」の名前で日本国内でも生地を販売するようになりました。
旧社名は「大同毛織株式会社」。こちらの社名ならある程度のご年齢の方は皆ご存知です。というのも、かつてこの大同毛織に、ひとりの輝かしいスーパースターが存在したからです。
その名は「古橋 廣之進」。アメリカでは「The Flying Fish of Fujiyama」=フジヤマのトビウオと呼ばれた水泳自由形の選手です。
戦後まもない1948年に開催されたロンドンオリンピック。占領下の日本は大会への参加が認められませんでした。
そこで日本水泳連盟はオリンピック水泳決勝の開催日と同じ日に、全日本選手権を開催しました。古橋はそこで、400m、800mの自由形において、ロンドン五輪を上回る世界記録を連発、敗戦で自信をなくしていた日本国民を大層勇気づけたそうです。
翌1949年にはアメリカで行われた世界水泳大会に参加が認められました。日本を旅立つ古橋には、昭和天皇やマッカーサー元帥からも激励の言葉が贈られました。
古橋はなんと自由形400m,800m,1600mの三種目すべて世界新記録を樹立し、全米を熱狂させました。ついたあだ名が例の「フジヤマのトビウオ」だったのです。
1951年に古橋は当時の大同毛織に入社、水泳を続けるかたわら仕事にも打ち込み、国際経験を生かして、バイヤーとしてオーストラリアへ原毛の買い付けに行ったりしていました。
1952年に参加が認められたヘルシンキオリンピックでは、思うように結果が出ませんでしたが、実況のNHKのアナウンサーが惜しみない賛辞をおくり、「古橋を責めないで下さい・・」という有名なセリフを残しました。
私は1964年生まれですが、フジヤマのトビウオ=大同毛織という認識が今でも残っています。
ダイドーリミテッドには、「ミリオンテックス」という高級紳士服地コレクションがあります。
その中でも、上質なモヘアを選んで織りあげた「インペリアルモヘア」生地で仕立てたスーツがこのほど仕立て上りました。
ベースの生地は明るめのグリーンがかったライトグレーです。ベージュ、ブルー、織り柄のストライプが交互に入った「オルタネート・ストライプ」柄です。しかもこの3色のストライプは互いに主張しすぎず、よく調和されています。
シングル2個釦、センターベントの非常にシンプルなデザイン。
ボタンも生地の表情に合わせた練り釦を使っています。
ウール&モヘア(30%)の生地ですから、生地そのものにとてもハリがあります。
したがって、ウェストからバストにかけて昇っていくラインも、立体的に美しく描くことができました。
ボタンは「キャメル」シリーズのラ練り釦イトグレー。
ライニングも薄めのグリーングレーです。
夏らしいウール&モヘアのスーツ。
先日も触れましたが、ほとんどのビジネスマンがダークスーツ一辺倒な中で、このような気持ちを明るくさせる明るいスーツをご着用されるのはありがたい事です。
どうか永くご愛用いただき、かつてこの大同毛織の生地づくりにも携わったフジヤマのトビウオ=古橋廣之新さんの「スピリット」をお楽しみいただきたいと思っております。