最近印象に残った文章があります。
それは、フランスの老舗ブランド「セリーヌ」のセーターに付いていた品質タグの小さな証書に、仏・英・日・伊・西・独の六カ国語で記されていました。
「セリーヌは、この製品をデザイン/製作するにあたり、厳選された素材を使用し、持てる技術のすべてを注ぎこみました。」
英語表記は、「Crafted with care in the finest materials available, this CÈLINE garment will endure for many years to come」 です。
英語表記を含め、各国語表記はほぼ文法上同様なので内容はすべて同じです。ところが日本語表記は文章の前半のみを訳しています。
英語版後半では、「このセリーヌのお洋服はこれから何年も愛用できます」と言い切っていますが、なぜ日本語表記ではこれが抜けているのでしょうか、不思議に感じます。
オーダーメイドでモノ作りをしている立場からすると、「何年も愛用できますよ!」と言い切った方が潔いし、書いてあった方が良いと思います。
もっとも、「持てる技術のすべてを注ぎこみました。」もカッコいい表現です。使わせてもらおうかな~(笑)!
ということで、相変わらず話が脇道にそれてしまいました。
英国の老舗ミル(織物工場)ブランド、TAYLOR & LODGE の上質ウール生地「LUMB`S GOLDEN BALE」 320g/mで仕立てたジャケットが完成しました。
お客さまからのオーダーで、「軽く快適なジャケットにして欲しい」とのことでしたから、肩パッド無し、一枚芯の構造になりました。
英国生まれのBESPOKE JACKETはその出自から、「数世代、型崩れせず着用できるように」と、まるでセリーヌが主張しているが如く作りあげられています。
具体的には、しっかりとした肩パッドや毛芯が使われるとともに、体形変化や子孫への譲渡を考慮し過剰ともいえる「縫い代」を残して仕立てられています。
このジャケットはその伝統的な仕様の「縫い代」まで大幅にカットいたしました。
確かに現代では孫子の代までお洋服を残していくことは現実として考えられません。
その結果、私も裁縫担当の加治木も驚くほどの「軽さ」に仕上がりました。
着用すると、生地ブランドのTAYLOR & LODGEの生地自体の重量感だけが感じられます。
それはまるで古代ローマの「トーガ」のような、生地をまとう感覚と言えましょうか・・・。
ライニングもボタンもミニマルに。シンプルに同系色にいたしました。
柔らかく、しなやかなコンフォートな着心地。しかしBESPOKEならではの包むような立体感。
「可能な限りの良質な素材と、入念な仕立てで、永くご愛用いただけるお洋服が出来上がりました。」
・・・・おっと、これはセリーヌの表記と同じですね。
洋の東西を問わず、良質なモノ作りの精神は同じものだ、と思わせるジャケットになりました。