12月10日にもなりますと年内あと20日程しかないわけで、年内納品の為にアトリエの職人たちは多忙を極めます。20年ほど前までは12月は全く休みを取らずに、ぶっ続けで縫製していました。さすがに現代では許されませんし、お客様のニーズがより細やかになってきていますので、職人も休息なしではやっていけません。
この季節、仕上がったお洋服は検品され、即納品されていきます。
冬は足踏み状態なのですが、さすがに12月の末になると300g/以上の冬服も必要になり ます。
生地も重くなると、職人の体力もそれなりに必要になります。
ところで、彼らアトリエの職人たちが使っている道具の名前は、とても面白いニックネームが付けられています。しかも昔からこの名前だったようで、正式名称は?とベテランに聞いても判りません。
しかし、なんとなく共通事項があるようです。
上の写真は「鉄マン」という道具です。基部が鉄製の頑丈なミニアイロン台です。ほぼ毎日使われます。
下の写真のように主に袖を成形する時に使いますが、ジャケットの各パーツの仕上げでも頻繁に活用します。だけではなくパンツのアイロン加工に使われます。各職人一人一台持っています。
下の道具は単に「まんじゅう」といいます。ジャケットの襟の成形や身頃のカーブ、パンツの臀部の丸みを出すための道具です。これも一人一個持っています。
これは「チーズボード」と呼ばれる、襟の仕上げに使うアイロン台の一種です。
「チーズボード」は普通はチーズをカットする板の事です。アトリエでの名称も昔から「チーズボード」だったようで、この呼称の源流はどこなのか和製英語なのか、英国の仕立屋に一度名称を確認したいと思っています。2,3人で1台を共有しています。
写真のおでんに入れるちくわぶ状のものは、「袖マン」と呼ばれます。
袖の中に通してアイロンをかけるための道具です。ただし使わない職人もいます。レディス服の仕立てでは、肩のいせ込みなどにもよく使われます。
下の写真は「なまこ」です。
いろんな形状がありますが、いわゆる「カーブ尺」といわれるものと同じ形状です。
ジャケットのパーツは、ラペルから胸ポケット、袖や身頃の縫線まで、様々なカーブが描かれています。裁断士から大まかなパーツを受け取った裁縫士は、より細やかな作業を、「なまこ」の描くカーブを参考にして生地をカット、縫い上げていきます。
ということで、皆様お気づきの通り、ほぼすべての道具が「食べ物」由来の名称です。昔のテーラーの工場(アトリエ)では、常にお腹を空かしながら作業をしていたのでしょうか。
「まんじゅう」系は日本独特の風俗からこの呼称が付いたのかもしれません。
私が子供の頃のアトリエは祖父の代の頃からの職人在籍していて、サイズもセンチだけではなく、「尺寸」を使っている職人もいました。こまやかにサイズ合わせをする際にうまく意思が伝わらず、困るようになり「センチ」を標準としましたが、彼ら昔堅気の職人は最後まで計算尺の様な物差しを持っていたものです。
今回は道具をご紹介しましたが、次の機会があれば古いテーラー業界に伝わる仕立ての用語や名称をご案内したいと思っています。