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【エッセイ】秋の夜長に・・・本切羽の事など

2015年10月26日

「本切羽」という言葉があります。
紳士服飾業界においては、袖の先端の上袖と下袖の継ぎ目の事を、「切羽」と表現します。
「切羽」には通常3個から4個の釦が配置されています。

 

 

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そして「本切羽」とは実際にその継ぎ目が、開けられる構造になっている状態の事です。そこには釦ホールが開けられています。既製品では手間が掛かる袖の「本切羽」は忌避され、BESPOKE においてもお客様から要望がない限りは穴かがりはいたしません。
BESPOKE SUITS は、その目的を「世代を超えて子孫に受け継がれる服」としていますので、袖の出し入れが出来なくなる「本切羽」をあえて施すことはしていません。

 

 

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今から約20年ほど前に服飾ジャーナリストの落合正勝氏が、雑誌でクラシコイタリア特集を組み、 これがバブル崩壊後の低迷していたメンズファッションに活気をもたらすことになりました。その折にイタリア服のディテールの一つとして、袖の釦の「本開き」つまり「本切羽」が紹介されました。曰くイタリアの伊達男は、本切羽である事を意識して、袖の釦をわざと一個だけ外している、というものでした。また、袖の釦の重ね付けも紹介されました。

 

 

 

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そしてこの記事が出て以降、忽然と「クラシコイタリア」ブームが沸き起こり、量販店のスーツも本切羽に重ね付けがトレンドになったものです。
個人的に落合正勝さんと親交があった私は、そういうディテールブームについて、氏に尋ねたことがあります。落合さんは「クラシコイタリアの本質とは離れてしまったブームで、自分の言いたかった事は、「クラシック」という精神なのだけど」と嘆かれていました。

 

 

 

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個人的には、もともと仕事で使われるクラシックなスーツに、本切羽は不必要と思います。あとは好みの問題です。ただし春夏のコットンやリネンのスーツやジャケットなら、素肌感覚で袖をまくることもありますので、本切羽が必要です。むしろ無いとおかしいのではないでしょうか。

 

 

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スーツのデザインは、産まれ故郷の英国紳士たちの日常の振る舞いの中から、次第に現代のカタチに熟成されてきました。
乗馬服を発祥とするスーツには、その名残の「ベント」や「フラップ」などと共に、「本切羽」も欠かせないディテールです。乗馬中には不断のアクシデントが付き物で、袖まくりしてトラブルを解決してゆかなくてはなりません。
現代の紳士は、袖まくりする必要は無いけど、切羽の釦はカタチとして残りました。
こんなスーツのあれこれを思い起こしながら、秋の夜長は更けていきます。