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【映画】TINKER TAILOR SOLDIER SPY (邦題「裏切りのサーカス」)のスーツ

2014年4月13日

写真は使い古された文庫本。この面白い本と映画についてお話しいたします。

 

 英国を代表するスパイ小説家、ジョン・ル・カレの名著「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を、私は大学生の頃に初めて読みました。

 

英国諜報部(通称「サーカス」)の中枢で活動する二重スパイ(もぐら)を、主人公が丹念に追い詰めていくという物語です。この物語の重厚さ、諜報部に勤務する英国人たちのリアルな描写、様々なパズルが最後に一つの方向に向かっていく「巻き込まれ感」、謎解きが収斂していくカタルシス、エンディングの「癒され感」・・・。

 

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最初に読んだときは、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」ほどではないですが、読んでいる途中、何度も考え、思い出しながら進まないと本筋が見えなくなる、そんな重厚な作品です。

 

現在私は48歳ですが、この作品をこれまで2回再読しました。再読するたびに、新しい発見に驚きます。自分が歳を重ねていくたびに、登場人物たちの人生の楽しみと哀しみを、身にしみて感じます。

 

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この小説が映画化されました。邦題は「裏切りのサーカス」。この邦題の良し悪しはさておき、映画そのものはとても良質で見ごたえがありました。

 

諜報部の元指揮官が裏切り者を高官5人にまで絞り込み、各人に付けた「あだ名」が、ティンカー、テーラー、ソルジャー、プアマン、ベガマンでした。

直訳すれば「鋳掛屋、仕立屋、兵士、貧乏人、乞食」です。英単語なので各単語に語源からくる複数の意味があり、Tinker[ティンカー]には、「下手な職人」「騒ぐ人」、「テイラー」にはラテン語の「適合させる」「切る」という意味もあります。そんなことを思いながら読むのも楽しいものです。

 

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映画は、70年代の英国を忠実に再現しています。スーツはフランネルやサキソニー系の英国らしいグレーやネイヴィー、茶色の基本スリーピース。

 

コートはキャメルのチェスターだったり、正統派トレンチコートやダブルのPコートだったり。

いつも雨が降っていて傘をさしたり、濡れ鼠だったり。

今風のSuper120的艶やかな服はまだ登場していません。

 

車は何とシトロエンDS。おお、現役で元気にふわふわと走っているではないですか!音楽はシャンソン、お酒は美味しくなさそうなシェリー酒。

 

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主人公「ベガマン」ジョージ・スマイリーには、名優ゲイリー・オールドマン。

 

最近は良心的な役がついていますが、ちょっと前までは「レオン」の極悪麻薬捜査官、フィフス・エレメントの狂った武器商人と、彼の出る映画すべてが彼のクレイジーな魅力で面白い、という人です。

 

初老で引退し、妻を寝取られたさえない中年スパイにぴったりの彼が、次第に「モグラ」をいぶりだしていく過程が静かで力強いタッチで描かれていました。

 

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「英国王のスピーチ」で主役を演じたコリン・ファースは、「テイラー」とあだ名を付けられています。

 

その名のごとく洒落者で魅力的、そして有能ながら、その正反対の欲深かつ不道徳な一面を時折ギラリと見せる。物語後半の圧倒的な存在感が見ものです。

 

他にも名優が出演しています。

 

「シャーロック・ホームズ」で一躍有名になった、デイヴィッド・カンバーバッチは、特に重要な役で、味わい深い演技をしています。この人のスーツスタイルも観てほしいです。

 

主人公のコスチュームデザインは、ポール・スミスが手掛けています。3つ釦のクラシックなスリーピースは、そのくたびれ感といい、映画のリアリティを深めます。

 

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映画を鑑賞しつ、スーツ、音楽、車、タバコと酒、人生をじっくり味わえるサスペンス作品を、皆様にもぜひ観てほしいものです。

 

ただし、007シリーズのようなアクション物ではありませんので、ご注意を。劇場の人物相関図を事前に頭に入れておくと、より判り易く楽しめる・・・はずです。

 

 【旧BLOG アーカイブ】 2012年8月

※旧三洲堂テーラーBLOGから、皆さまのリクエストで再度このHPに記事をUPいたします。

【映画】「鑑定士と顔のない依頼人」、ヴァージルのスーツ

2014年2月20日

ミステリアスな映画「鑑定士と顔のない依頼人」。

 

衣装協力はジョルジオ・アルマーニ。

主人公を演じる俳優、ジェフリー・ラッシュの難しいいかり肩体型に、実に上手にジャケットをフィットさせています。

 

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姿を現わさなない依頼人から美術品の鑑定依頼を受けた美術品鑑定士、ヴァージル・オールドマン。

 

内容は映画をご覧になって欲しいのですが、ミスタ・オールドマンは、「孤高」「有能」「富裕」「冷徹」といった性格を見事に演じています。

その表現力には、「服装」が大きな要素を占めています。

 

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冒頭、レストランで独り夕食のコースをとるオールドマンは、ダブルブレストのダークスーツに、高級だが地味目のネクタイ、革の手袋をつけています。

 

ペアや友人同士のテーブルが多い中、独りでコースとワインを頼み、にこりともせず食事。しかも、お店の用意した誕生日の記念ケーキを「誕生日は明日だから」と断る。周囲と壁を築き、傲岸な雰囲気を漂わせつつ、つまらぬ感情に左右されたくない・・・そんな感情がダブルブレストのダークスーツから漂っています。

 

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ヴァージルには人に言えない秘密の楽しみがあります。

 

スペアの手袋がずらりと並んだ棚のスイッチを押すと、そこには電子ロックのかかった部屋があります。中に入ると・・そこは、ヴァージルが自ら落札した世界中の美人画が壁いっぱい飾られています。

 

映画に真実味をもたらすために、このシーンは何と正真正銘本物の絵を美術館から借り受けて撮影したということです。・・・なんと7割が、本物の作品です。

 

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・・・スクリーンいっぱいに映るこの部屋のシーンは本物の力があります。

 

ヴァージルは独り、にこりともせず絵の中の女性たちを眺め愉しんでいます。表情は変わらないものの、ダブルのジャケットのの前ボタンは外れている・・・この表現だけで、ヴァージルがこの世界だけを愛していることが判るシーンです。

 

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中盤の盛り上がり、顔のない依頼人がついに登場します。依頼人は外出恐怖症の若い美人、クリス。仕事上の事もあり、また不思議な構造をもつメカの断片の謎ときもあり、次第にクレアに関心を持つようになるヴァージル。

 

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鎧のようなダブルのダークスーツは、シングルになったり、グレーのフランネルやグレンチェックになっていきます。

服の柄と素材で表情の硬い主人公の心境の変化を描いていきます。

 

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物語が進むにつれ、観客は初老のヴァージルの恋の行方を応援したい気持ちと、映画に流れるエンニオ・モリコーネの不安感を醸し出す音楽に、何かとんでもないことが起きつつあることを予感するようになります。

 

 

・・ここからはネタばれですのでもう止めましょう。

 

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映画の最後、ヴァージルの表情には不思議な希望が漂っています。

 

プラハのカフェのヴァージルのスーツは威圧感も無くなっています。

残念ながらこのシーンの写真はどこにもありませんでした。

 

 

・・・・ということで、ぜひ映画をご覧になってください。美と大人の恋心とミステリーを堪能できること間違いなしです。

 

鹿児島では、近くの天文館シネマパラダイスで公開予定です。

http://tenpara.com/index.html

【華麗なるギャツビー】「大切な時」に選ぶスーツならこの一着

2014年1月4日

皆さま今年も当HPにお立ち寄りいただき、ありがとうございます。

 

今年最初のエッセイは、お正月にちなんでのことです。

 

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以前は当たり前だったのに、習慣的に少なくなってきたことといえば、お正月に備えて、身の回りの物を新調する、あるいは買い換える という習わしもその一つではないでしょうか。

 

天文館アーケードの老舗バッグ店の樋口社長に聞いたお話では、昭和40年末頃まで、正月の店頭では、山のように並んだ財布が飛ぶように売れていたようです。

天文館に隣接する照国神社に初詣された方々、特に自営業者の方や職人さんたちが、新年の運気を向上させるために、財布を買い換えてらっしゃったとのです。残念ながら今は、そんなお客様はほとんどいらっしゃらないとのことでした。

 

また、当店でも「お正月の服」としまして、毎年師走やお正月にスーツやジャケットを新調されるお客様が、多数いらしゃいました。新しい服を着て、気持ちを新たに切り替え、仕事に臨む。こうしてモノがあふれる今の時代でもその気持ちはわかります。

 

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昨年末最後にご納品させていただいた数着のお洋服も、そういった「お正月の服」でした。

 

今日ご案内するのは、その中の一着です。

 

「大切な時」に着るスーツ・・・。生地はイタリアの高級生地メーカー、ロロ・ピアーナ社を代表する「Winter Tasmanian」です。

この「ウィンター・タスマニアン」生地は、私が家業に参加した19年前は、ウールのSuper120、320g/mでした。

その当時、Super120ウールは珍しい高級品でしたが、そのSuper120生地をバンチブック(見本帳)に色柄揃えて、ずらりとラインナップさせた、ロロ・ピアーナ社は前年に日本法人を作り、意気軒高に自信作をPRしていたものです。

 

 

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当店にとっても、上質生地の定番品になった「ウィンター・タスマニアン」ですが、数年後にはSuper130規格になり、現在ではSuper150規格になりました。

 

観て、触れて、着て、その上質感を実感してしまう、Winter Tasmanian。

そのスタンダードなダークネイヴィーは、正に「壇上の服」というべき、人生の大切なひと時に着用いただきたいスーツに仕立て上がります。

 

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大事な方との面談、大切な会議、壇上であいさつする時・・・、濃紺無地のこのスーツがが、貴方のお役に立ちます。自分に自信を与えるとともに、相手に信頼感を持たれることは間違いがありません。

 

その人の服装、なかでもスーツスタイルは、単純な表現の手法の一つですが、自分自身のバックボーンや考えといった目に見えないその人となりを、自然に周囲に醸し出す役割があります。

 

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映画「華麗なるギャツビー」は、謎めいた成功者である主人公ギャツビー役を、俳優ロバート・レッドフォードやレオナルド・ディカプリオとしった、アメリカを象徴する美男子たちが演じています。

 

映画の中で、 すばらしく似合っているオフホワイトのスーツを着たギャツビーと対面した、由緒ある富豪のトム・ブキャナンは、「オックスフォードを出たやつがあんなピンクのスーツを着るもんか!」と、ギャツビーの出自を疑う陰口をたたきますが、こんなシーン一つとっても、スーツスタイルは、両刀の剣だと判ります。

 

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私たちスーツをお客様に勧める側も、BESPOKEという言葉の原点を心がけながら、仕事をしていこうと思うお正月でした。

 

さて、本年も三洲堂テーラーを、そしてこのHPを、ご愛顧のほど、みなさまよろしくお願い申し上げます!

【プロフェッショナル・仕事の流儀】パリのテーラー、鈴木健次郎さんの回を観て

2013年12月11日

12月9日放送の、NHK「プロフェッショナル・仕事の流儀 ~パリの新風 一針の美学」をご覧になった方も多かったと思います。

 

http://www.nhk.or.jp/professional/2013/1209/

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パリのテーラー、鈴木健次郎氏のショップ兼アトリエは、まるで当店と同じような作りです。

 

そこで、生地やスタイルを選び、デザインを決め、個々人の型紙を、その店の流儀でスタッフが型起こしする。職人の手で仮縫い補正をして、最終的に手縫いにより一針一針縫って仕立てる。これが「BESPOKE」です。

 

昨日は当店にも、放送についての感想や、問い合わせなどをいただき、皆さまの関心の高さがうかがえました。この番組は結構見ている方ですが、久しぶりに「プロフェッショナル」な内容で、いつにも増して、面白い回だったと思います。

 

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内容は、再放送が今週12月13日金曜日深夜に放映されるので、それを観ていただきたいのですが、テーラーとして共感できるシーンが沢山ありました。

 

BESPOKE(仮縫い補正付きハンドメイド・・・すなわち本当のオーダーメイド)と既製品の違いは、仕上がった洋服の立体感にある、という事が述べられていました。その通りです。手縫いにより、立体的な胸の構築ができますが、それは、バストから胸にかけてのマニッシュな逆三角形をデザインされていてこそ、引き立ちます。ラペル=下襟は釦の上から、しなやかにロールしていますが、ここにも「手」によって「八刺し」が入り、きれいなカタチが仕上がります。

 

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お腹の出たお客さまからのオーダーを受けて、ジャケットの製図をするのですが、釦位置の割り出しと、ラペル(下襟)の線をどのように引くかというシーンが出てきました。私たちも、実際に丸く突き出たお腹のてっぺんに釦位置はしないと思いますが、これも「仮縫い」着せ付けなしでは、判らないものです。

 

そして、肩やお腹のバランスを、「ミリ単位」で調整することで、出来上がりに差が出てくる・・・。

その通りですね。

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大物弁護士からの依頼による、「トラベルジャケット」。そのクライアントは服の出来上がりに厳しく、今までも何回か型起こしを重ねて、仕立てに悩んでいる・・・というシーンには、とても共感しました(笑)。判ります、その気持ち。

 

ジャケットのポケットは、ポケットの上にもう一つポケットが乗る。しかも上のポケットはフラップ付きの観音開き。ハンドステッチを施さなくてはならない。その上、生地が夏物のフレスコっぽい薄手。

このシーンを職人たちと話しましたが、「ため息がでるよね」ということで一致しました。

 

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そのジャケットのポケット部分について、「もしダメ出しを喰らったら、別生地で提案して作り直そう」と、奥様と話す鈴木氏。結果、お客様は「トレビアン!」とおっしゃり、ご満足いただけました。

 

ほっとした鈴木さんと奥様の表情は、まるで私たちの日常そのものです。

 

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印象に残ったお客様の言葉、

 

「・・・・自分の服を満足いくように作る。しかも手縫いでね。判らないかもしれないがそこが好きなんだ・・・」。 

 

その通り、服好きのお客様は、洋の東西を問いません。

 

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鈴木氏の真摯な姿勢は、私たちテーラー業を始め、モノ作りを営む人たち全てに共感できるものです。

 

私は、番組を観終わって、とてもすがすがしい気持ちになりました。

ということで、見逃した方、今週金曜深夜はぜひご覧ください!

 

 

さて、今日も明日もその先も、「一針の美学」を追求する日が待っています!!